ベトナム社会保険制度の概観
ベトナム社会保険当局の保険政策は、労働者の生活、政治そして社会安全秩序の安定、また、国家建設・祖国防衛の事業促進のための一助となる党および国家の大きな政策です。
社会保険の目的は、正に、疾病、出産、労災・職業病、障害、失業、加齢、死亡などによって労働者が所得を失ったり、所得の減少を余儀なくされた際に、労働者の所得の一部補填を担保することにあります。社会保険は、加入者からの納付金と国家からの補助による社会保険基金に基づいており、労働者および労働者の家族の生活安定と共に、社会安全のための一助とすることが目的です。
ベトナム社会保険庁は、中央政府レベルから地方レベルに至る以下の組織から構成されています。
1. 中央政府レベルのベトナム社会保険庁。
2. ベトナム社会保険庁傘下の省・中央直轄都市レベルの社会保険局。
3. 省・中央直轄都市レベルの社会保険局傘下の区・市町村レベルの社会保険当局。
ベトナムの社会保険は1945年から実施され、多くの改正を経てきました。2002年1月24日付け政府決定Decision 20/2002/QD-TTgにより、保健省傘下にあった健康保険制度がベトナム社会保険庁へ移管されました。2009年1月1日からは、失業保険制度が施行されており、これもベトナム社会保険庁の管轄になっています。
ベトナム社会保険制度では、社会保険、健康保険および失業保険から成る強制保険制度に加えて、強制保険制度の加入対象者では無いけれども保険加入を希望する人に対する任意社会保険および任意世帯健康保険の制度も用意されています。
社会保険庁の統計データによれば、2017年6月末現在の社会保険、健康保険および失業保険の加入者は全国で78,029百万人おり、2016年6月末から2.6%増加しています。そのうち、強制社会保険の加入者は13,083百万人、失業保険の加入者は11,277百万人、任意社会保険の加入者は215千人、健康保険の加入者は77,814百万人、健康保険の国民加入率は83.4% になっています。任意社会保険および世帯健康保険については、加入者の権利が評価されており、加入者数が増加傾向にあります。特に、保険当局は、2017年6月1日から、健康保険証を持たない人に対する1,900以上の医療サービスの新料金を適用していますので、世帯健康保険は、医療費の負担を軽減する最善の対応策の一つと言えるでしょう。
以下では、いくつかの具体的な項目に関する強制社会保険、健康保険および失業保険、そして、任意保険の比較をしてみたいと思います。
1. 強制社会保険および任意社会保険の比較
項目 |
強制社会保険 |
任意社会保険 |
a) 社会保険加入者の権利 |
- 疾病制度 規定に従い疾病制度の条件を満たす加入者は、長期疾病ではない疾病、長期治療が必要な疾病、7歳未満の子供の看病、疾病後の健康回復などケースにより、規定の権利を享受します。 社会保険加入者は、治療や健康回復のための休職に加えて、ケースにより、前月の社会保険料計算給与額の50%から100%の給付金を受けることができます。 - 産休制度 条件を満たす加入者は、妊婦検診、流産、人工妊娠中絶、死産、避妊手術に際して休職し、かつ、給付金を受けることができます。 女性労働者は、産前産後6ヶ月休職でき、双子以上の場合は子供1人につき休職期間が1ヶ月延長されます。加えて、直近6ヶ月の平均社会保険料計算給与額100% x 休職月数の食う付近を受けることができます。 社会保険に加入している男性労働者の妻が出産する場合、男性労働者は産休制度による5日から14日の休職ができ、相応する給付金([直近6ヶ月の平均社会保険料計算給与額 / 24日] x 休職日数)を受けることができます。 - 労災・職業病制度 規定の条件を満たす労災の被災を受けた労働者、職業病に罹患した労働者は、以下を享受することができます。
労災・職業病による障害の治療を経て、職場復帰後30日以内にまだ健康を回復していない場合、5日から10日休職できます。更に、家庭で休養する場合は1日当たり基礎給与額の25%、専門機関で休養する場合は1日あたり基礎給与額の40%の給付を受けることができます。 - 年金制度 規定の条件を満たす労働者は、ケースによって5年から納付全期間の平均社会保険料計算給与額の45%から75%の月次年金を受けることができます。 - 一時社会保険制度 年金受給年齢に達しても社会保険料の納付期間が20年に満たない場合、または、退職1年を経ても社会保険料の納付期間が20年に満たなくかつ社会保険料の納付を継続しない場合、命にかかわる危険な病気に罹患した人、あるいは、外国で定住するために出国する人は、一時社会保険制度の適用を申請することができます。 給付金額は社会保険料の納付年数に基づき、1年について以下の通り計算されます。
- 遺族年金制度 規定の遺族年金制度の条件を満たす場合には、基礎給与額10ヶ月分の葬祭給付金が遺族に給付されます。 その他、遺族は、月次遺族年金または一時遺族年金を受ける権利を持っています。 |
- 年金制度 条件を満たす加入者は以下を享受できます。
- 一時社会保険給付 加入者は以下の一時社会保険給付を受けることができます。
納付期間が1年に満たない場合、給付額は納付額と同じ金額になります。但し、平均社会保険料計算給与額の2ヶ月分相当が上限です。 - 遺族年金制度 任意社会保険の加入者は、以下の権利を享受できます。
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b) 対象者 |
グループ 1: ベトナム労働者 - 無期限労働契約、3ヶ月以上12ヶ月未満の期限付き労働契約、季節労働契約、または、特定業務労働契約に基づいて働く労働者で、労働法の規定に基づいて15歳未満の法定代理人と締結した場合も含みます。 - 1ヶ月以上3ヶ月未満の期限付き労働契約に基づいて働く労働者(2018年1月1日以降に対象となります)。 - 公職幹部、公務員、公立機関職員、企業・合作社の管理者などその他対象者。 グループ 2: ベトナムへ入国して働く外国人労働者 ベトナム管轄当局が発行した労働許可証、専門職資格証明書、専門職許可証を持つ外国人労働者(2018年1月1日以降に対象となります)。 グループ 3: 強制社会保険の対象となる雇用主 労働契約に基づいて労働者を使用する機関、組織、企業。 |
任意社会保険の加入者は、満15歳以上のベトナム人で、強制社会保険の加入対象にならない人です。
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c) 保険料 |
社会保険の月次納付額は、社会保険料計算給与額の25.5%相当で、内訳は、労働者負担分が8%、雇用主負担が17.5%(2017年6月1日以降)です。 - 社会保険料および健康保険料計算給与額が基礎給与額(公務員等の給与テーブル作成などの基礎となる給与額)の20倍を超える場合、基礎給与額の20倍を社会保険料および健康保険料計算給与額とします。 - 失業保険料計算給与額が地域別最低賃金の20倍を超える場合、地域別最低賃金の20倍を失業保険料計算給与額とします。 - 保険料計算給与額は、地域別最低賃金を下回らないこととします。 |
社会保険の月次納付額は、加入者が任意に選択する給与額の22%相当です。 - 最低額は、首相が定める農村地域での貧困世帯の所得額です。 - 上限額は、納付時点での基礎給与額の20倍です。
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d) 納付方法 |
毎月、月末日までに、社会保険、健康保険、失業保険に加入している労働者の給与ファンドに対する各々の保険料額を引当て、同時に、各々の労働者の強制社会保険料計算給与額から規定の保険料額を控除して、銀行または国庫に開設された社会保険当局の専用口座へ併せて送金します。 農業・林業・漁業分野などで活動する合作社、事業世帯、合作班(契約に基づく3名以上の事業主体)いくつかの特別な対象者の場合には、3ヶ月または6ヶ月に1度の納付方法を適用することもできます. |
任意社会保険の加入者は、以下の6つの納付方法から選択することができます。 - 月次納付。 - 3ヶ月毎の納付。 - 6ヶ月毎の納付。 - 12ヶ月毎の納付。 - 複数年度分の一括納付。但し、5年分を超えないこと。 - 年金受給年齢の条件を満たしているが納付期間が20年に達していない加入者の場合で、不足年数分の一括納付。 |
e) 加入手続きと納付場所 |
強制社会保険の保険料は、雇用主を通して納付します。雇用主は、事業登録をしている行政区の社会保険当局に対して、専用ウェブサイト経由、郵送、または、直接提出により加入書類を提出して、結果通知を受け取ります。 会社の支店は、支店の事業許可証を発行された場所で社会保険料を納付します。 |
任意社会保険の加入者は、居住地行政区の社会保険当局で各種社会保険制度の届出および結果受取りを行い、居住地の郵便局で保険料を納付します。 |
2. 強制健康保険と世帯健康保険の比較
項目 |
強制健康保険 |
世帯健康保険 |
a) 権利 |
- 対象者は、人民公安軍で働く職業将校・下士官、技術将校・下士官、革命功労者、6歳未満の子供に対して診察治療費の100%。 - 1回の診察治療費が規定額未満であり、かつ、区レベルの医療機関で診察治療を受けた場合、診察治療費の100%。 - 年金受給者、労働力喪失月次給付金の受給者、月次社会援助給付金の受給資格者、貧困世帯の家族、経済社会的に困難または特別困難な条件の地域で生活している少数民族に対して診察治療費の95%。 - その他対象者に対しては、診察治療費の80%。 .複数の対象者カテゴリーに該当する場合は、最も有利な権利を得られる対象者としての権利を得ることができます。 |
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b) 対象者と保険料 |
- 月次給与額の4.5%。そのうち、労働者負担分が1.5%、雇用主負担分が3%です。 |
世帯健康保険の加入対象者は、強制加入対象グループの1、2、3および4を除く、保険加入者世帯の家族。 - 1番目の人は基礎給与額の4.5%を納付します。 - 2番目、3番目および4番目の人は、各々、1番目の人の納付額の70%、60%、50%を納付します。 - 5番目以降の人は、1番目の人の納付額の40%を納付します。 |
- 月次給与額の4.5%。 |
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- 月次給与額の4.5%。 |
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- 基礎給与額4.5%のうち加入者負担分が3%、国家予算からの補助分が1.5%。 |
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c) 加入手続き |
書類: - 労働者側:
- 雇用主側:
社会保険当局の受付窓口で直接提出するか、または、専用ウェブサイトを通じて提出します。 |
書類: 任意健康保険加入届出用紙(様式01/BHYTTN)。内容確認のための戸籍謄本写し。保険料の減額を受ける場合は、世帯健康保険への加入者の健康保険カード写しを添えること。 保険料代理領収者または社会保険当局へ納付します。 |
d) 納付方法 |
- 毎月、雇用主は、雇用主負担分の健康保険料と労働者の給与から控除した労働者負担分を併せて健康保険基金へ納付します。 - 農業・林業・漁業・製塩業の分野に属する企業で、月次の給与を支払っていない場合には、3ヶ月毎または6ヶ月毎に、雇用主負担分の健康保険料と労働者の給与から控除した労働者負担分を併せて健康保険基金へ納付します。 |
- 始めて加入する場合、または、3ヶ月以上未加入期間を経て改めて加入する場合:月の25日から月末までの期間に納付します。保険料徴収代理人が社会保険当局へ納付した日より30日後から健康保険証を使用できます。 - 加入期間の延長をする場合、または、3ヶ月未満の未加入期間を経て改めて加入する場合:健康保険証の期限が切れる月の15日から20日までの期間に納付します。健康保険証は翌月から使用可能です。 - 3ヶ月毎、6ヶ月毎、または12ヶ月毎に、世帯の代表者、組織、個人は、納付義務額を健康保険基金へ納付します。 |
e) 適用条件 |
- 診察治療の際に有効な健康保険証と適法な写真付きIDカードなどの個人証明書を提示する必要があります。 - 救急の場合:場所を問わずどの医療機関でも受け入れられます。退院時に、健康保険証と適法な写真付きIDカードなどの個人証明書を提示する必要があります。 |
3. ご提案
現行規定によれば、労働者は、雇用主の社会保険料納付により疾病・産休、労災・職業病、年金・遺族年金の制度を享受することができます。満15歳以上で、雇用主が社会保険料納付する対象に含まれない場合には、任意社会保険に加入して、年金・遺族年金制度を享受することができます。従って、適切な社会保険制度の選択は、個人の状況や年齢など多くの要素に依存します。適切な社会保険制度の選択に関する具体的アドバイスや社会保険の法令順守、給与計算、個人所得税申告支援などに関わるサービスをご要望される方は、ご遠慮なく、弊社Grant Thornton Vietnamの専門家へお問い合わせ下さい。